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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)8040号 判決 1989年5月31日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、別紙目録7ないし17の特許出願について、特許権設定登録を条件として、範囲全部、地域日本全国、実施料無償とする専用実施権の設定登録手続をせよ。

2  別紙目録18ないし26の外国特許権及び外国特許出願について、原告が範囲全部、地域全国、実施料無償とする専用実施権と同等の権利を有することを確認する。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者等

(一) 原告は、ゲルマニウム化合物に関する技術研究及び有用なゲルマニウム化合物製品の製造販売等を目的として、昭和五〇年に設立された株式会社である。原告は、その設立に際して、従前から存した権利能力なき社団である浅井ゲルマニウム研究所(以下「浅井ゲルマニウム研究所」という。)の全資産(研究開発設備、債権債務、研究スタッフ及び特許ノウハウを含む研究開発の成果等一切)を承継し、これを基盤として今日の活動を継続している。

(二) 化学式(GeCH2CH2COOH)2O3を有する化合物は、浅井ゲルマニウム研究所により初めて合成された新規物質である。浅井ゲルマニウム研究所は、右化合物が、制ガン剤、血圧調整剤、老化防止剤等として将来性を有するものであることを後記2の項で述べる動物実験により確認し、これをGe132と名付けた。

(三) 被告らは、訴外故佐藤隆一(以下「訴外佐藤」という。)の法定相続人である。訴外佐藤は、医学博士の学位を有し、動物を用いて医学的実験を行うことを目的として設立された訴外株式会社日本実験医学研究所(以下「訴外会社」という。)の代表取締役社長の職にあった者である。

2  研究委託契約

浅井ゲルマニウム研究所は、昭和四六年七月一日、訴外会社との間において、Ge132の薬効及び毒性催奇性について研究委託契約を締結し、同委託試験は、同年から昭和五〇年頃にかけて実施され、試験結果が詳細データとともに浅井ゲルマニウム研究所に対して報告された。

3  訴外佐藤の特許出願

ところが、訴外佐藤は、右Ge132の薬効に強い関心を抱き、浅井ゲルマニウム研究所に対し、言葉巧みに申し向けて、その製造ノウハウを開示させ、訴外池上四郎らと研究グループを結成し、その研究成果と称して、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製造方法に係る特許出願を、昭和五〇年(一九七五年)一〇月二三日、ベルギー国に行い(出願番号一六一一八一)、右ベルギー国特許出願に基づき、工業所有権保護に関するパリ同盟条約の優先権を主張して、別紙目録4ないし6の特許権を得た。

4  和解契約

(一) 訴外佐藤の右特許権の内容をなす技術は、前記研究委託契約に基づき浅井ゲルマニウム研究所から委託研究を進めるために開示された技術と、これに基づき右契約の履行としてなされた動物試験の結果とを内容とするものである。少なくとも、これらを基礎とするものである。

(二) そこで、原告は、訴外佐藤の責任を追及し、昭和五三年六月七日、訴外佐藤との間において、覚書と題する書面(甲第五号証)により、「訴外佐藤は、原告に対し、アメリカ合衆国特許第四、〇六六、六七八号及びこれに対応する、日本、フランス、ベルギー、西独、英国の特許権及び特許出願について専用実施権を設定する。専用実施権の制度のない国において、右趣旨に基づく実施権を設定する。」旨合意した(以下「本件和解契約」という。)。

右和解契約という「アメリカ合衆国特許第四、〇六六、六七八号」は、別紙目録5の特許であり(以下「米国特許」という。)、「これに対応する特許権及び特許出願」は、同目録1ないし4及び6のとおりである。

なお、右覚書は、前文においては、「譲渡人佐藤隆一 譲受人浅井一彦」と表示されているが、調印欄においては、「譲受人 浅井ゲルマニウム研究所」とされているから、契約当事者は、浅井一彦個人ではなく原告であり、かつ、特許権実施の許諾ないし実施権の設定を受ける者も、原告自身にほかならない。

5  バイオジトン8に関する訴外佐藤の特許出願

ところで、訴外佐藤は、本件和解契約締結当時、前記研究グループの研究結果(GeCH2CH2COOH)2nO3なる化学式を有する新規物質を発明したと称して、これをバイオジトン8と命令し、Ge132とは別異の化合物であると主張して、右バイオジトン8に関し、別紙目録7及び8の特許出願をしており、更に、その後も、本邦及び外国において、バイオジトン8に関し、同目録9ないし26の特許出願をした(以下「本件特許出願等」という。)。

6  本件特許出願等と米国特許の同一性

(一) 本件特許出願等は、本件和解契約において、対象権利として必ずしも明示的に示されていないが、バイオジトン8は、以下に述べるとおり、右契約で言及されている米国特許の物質と実質的には同一のものであるから、バイオジトン8に関する本件特許出願等は、右米国特許と実質的に同一内容の発明を内容とするものであって、原告は、右特許出願等についても、米国特許に関する本件和解契約による権利と同様の権利を有するものである。

(二)(1) 米国特許の特許請求の範囲は、次の1及び2のとおりである。

1  式<省略>

(式中MetはNa、K、NH4、H2N(CH3)2から成る群から選ばれた一価のカチオン、又はCa及びMgから成る群から選ばれた二価のカチオンを示し、[10]はMetが一価のカチオンの場合は1を、Metが二価のカチオンの場合は2を表す。)で表される化合物。

2  トリクロルゲルマニウムとエクリル酸を反応させて、式<省略>

式<省略>

で表される3-トリクロロゲルミルプロピオン酸を得、この酸を苛性アリカリ水溶液により加水分解した後に酸性とすることにより、式

(Ge-CH2-CH2-CO2H)2nO3n

(式中、nは1、2又は3である。)で表される3-ゲルミルプロピオン酸酸化物を得、この酸化物を金属Metの水酸化物(MetはNa、K、NH4及びH2N(CH3)2、Ca、Mgのカチオンである。)と反応させることを特徴とする請求の範囲第1項の化合物を製造する方法。

(2) 米国特許の目的物質である3-ヒドロキシゲルミルプロピオン酸塩類は、薬剤としての有用性を具えるものであり、例えば、

<1> 精神、神経領域での障碍

てんかん、憂鬱症、精神分裂症、眼精疲労、偏頭痛と末梢神経炎

<2> 代謝障碍

リヒド代謝の改善、過コレステロール血症の改善と抗糖尿病効果

<3> 心、血管系

高血圧、心機能の亢進、抗出血性効果、血管強化安定効果、末梢循環の改善

<4> 消化器官

胃、十二指腸及び大腸の潰瘍の改善、便秘への効果

<5> 皮膚疾患

異常性乾癬、異常性座瘡

<6> アレルギー疾患

気管支喘息、薬物発疹、蕁麻疹

<7> 腎機能

利尿効果、ネフローゼに対する効果

<8> 肝機能障碍

急性及び慢性肝炎、肝萎縮、肝硬変、脂肪肝、肝がん

<9> 産科及び小児科領域の疾患

妊娠、授乳中の栄養障碍の治療、乳児の発育障碍、早熟児の網膜症、アクトニア性嘔吐の治療

<10> 薬物の長期投与の予防効果

<11> 一般的疲労、倦怠及び無力症

に対し適用することができるとされている。

(三) 米国特許の化合物とバイオジトン8の同一性

前記のように、米国特許の最終目的物は、(GeCH2CH2COOH)2nO3nに金属水酸化物を反応させて得た金属塩であるところ、右の(GeCH2CH2COOH)2nO3nは、バイオジトン8である。

ところで、バイオジトン8は、その水溶液では水和され、

式<省略>

の形で安定化される。一方、前記最終目的物は、金属塩であるから、その水溶液には金属イオンが含まれてはいるが、これ自体は薬理活性を示すものではないので、前記最終目的物の水溶液における薬理作用を示す物質は、上記バイオジトン8の場合と同様に、

式<省略>

であるということができる。

そして、バイオジトン8及び前記最終目的物は、共に薬剤として用いられる点に有用性があるものであり、薬剤として生体に投与される限り、遊離のカルボン酸と金属塩との相違に薬解離状態の相違はあるにせよ、生体内の水により前記カルボン酸イオンとなって作用することにおいて変わりはない。また、米国特許の最終目的物は、バイオジトン8を化学反応に付すことにより得ることができ、一方、右最終目的物の水溶液から化学反応によりバイオジトン8を単離することもできるのである。

したがって、バイオジトン8は、右最終目的物とその本質において変わるところのないものである。

(四) 別紙目録7なしい26の特許権又は特許出願に係る発明は、以下のとおり、米国特許と実質的に同一の発明である。

(1) 目録7(有機ゲルマニウム重合体)

この出願の化合物は、バイオジトン8であり、前記のとおり、米国特許の化合物と実質的に異ならない。

(2) 目録8(有機ゲルマニウム重合体の製造方法)

この出願の発明は、一定の化合物の製造方法に関するものであるが、米国特許のクレーム1の製造方法中に包含される。

(3) 目録9(有機ゲルマニウム重合体を主剤とした温血動物用薬剤)

この出願の発明は、前記(1)の出願の化合物の温血動物用薬剤としての用途に関するものであるが、米国特許で確認されている化合物の有用性を特許請求の範囲に記載したものにすぎない。

(4) 目録10(有機ゲルマニウム化合物を含有する免疫賦活剤)

この出願の発明は、前記(1)の出願の免疫賦与剤としての用途に関するものであるが、この用途は既に米国特許に開示されているところである。

(5) 目録11(有機ゲルマニウム重合体並びにこれを主剤とする抗けいれん剤)

この出願は、一定の化合物及びその抗けいれん剤としての用途に関するものであるが、この化合物は、米国特許の化合物と実質的な差異はなく、その用途も米国特許に開示されている。

(6) 目録12(有機ゲルマニウム重合体)

この出願の発明の化合物は、米国特許の化合物と実質的に同一である。なお、この出願は、前記(2)の出願の分割出願である。

(7) 目録13(有機ゲルマニウム重合体)

米国特許に示された化合物と実質的に同一の化合物に関する発明である。

(8) 目録14(有機ゲルマニウム重合体を主剤としたウイルス用薬剤)

この出願の発明は、前記(1)の出願の化合物のウイルス用薬剤としての用途に関するものである。米国特許の化合物が、皮膚疾患や肝機能障害に有用であることは、それがウイルス性疾患についても薬効があることを示すものである。したがって、この出願の発明は、米国特許の化合物の有用性の機能を単に追認したものにすぎない。なお、この出願は、前記(3)の分割出願である。

(9) 目録15(有機ゲルマニウム重合体を主剤とした白内障用製剤)

この出願の発明は、前記(1)の出願の化合物の白内障用薬剤としての用途に関するものであるが、米国特許の化合物を眼科の疾患について有効であることは、その明細書に開示されている。なお、この出願も、前記(3)の出願の分割出願である。

(10) 目録16(有機ゲルマニウム重合体を主剤とする癌用薬剤)

この出願の発明は、前記(1)の出願の化合物の癌用薬剤としての用途に関するものであるが、米国特許にも、例えば肝癌に有効であると開示されているように抗癌性を有していることが既に開示されている。この出願も、前記(3)の出願の分割出願である。

(11) 目録17(有機ゲルマニウム重合体を主剤とするC.R.D.(C.R.D.コンプレックス)用薬剤)

この出願の発明は、前記(1)の出願の化合物のC.R.D.コンプレックス用薬剤としての用途に関するものであるが、米国特許の化合物も、その投与による全身症状の良化に効果があることが明細書に開示されている。したがって、C.R.D.コンプレックスの患者に投与した場合に有効なことは、十分予測しうるものである。この出願も、前記(3)の出願の分割出願である。

(12) 目録18

この特許は、前記(1)及び(2)の出願に基づき、パリ条約四条の優先権を主張して西独において出願されたものであるから、その発明の内容は、前記、(1)及び(2)の出願に係る発明と同一である。

(13) 目録19なしい21

いずれを右(12)と同様である。

(14) 目録22ないし26

いずれも目録21の出願の分割出願である。

7 信義則による本件和解契約の解釈

以下に述べるとおり、バイオジトン8は、Ge132と同一の化合物であり、このGe132をめぐる紛争を解決するために本件和解契約が締結された経緯を考慮すれば、バイオジトン8に関する本件特許出願等は、本件和解契約に含まれるものと解釈すべきである。

(一) バイオジトン8とGe132の同一性

Ge132は、二分子のカルボキシエチルゲルマニウム(GeCH2CH2COOH)と三原子の酸素Oとからなる、カルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイドを繰返単位とする、一二員環網目構造を持つ重合体である。このような重合体を化学式で表す場合、有機化学の分野では、繰返単位となる構造及び繰返しの数である重合度を示すnを用いるのが一般的であるが、Ge132のようなタイプの有機ゲルマニウム化合物は、常に重合体として存在するため、単量体と重合体という区別に意味がないので、(GeCH2CH2COOH)2O3なる化学式により表している。

一方、バイオジトン8は、訴外佐藤らが特許出願人となっている別紙目録7の出願の願書添付の明細書によれば、(GeCH2CH2COOH)nO1.5nで表される化合物であるという。しかしながら、前述のようにGe132やバイオジトン8のようなタイプの有機ゲルマニウム化合物では、単量体と重合体という区別それ自体がない。したがって、重合度を示すnを用いて化合物を表すことに意味はないから、バイオジトン8を、Ge132と同様の方法で化学式に表すと、(GeCH2CH2COOH)O1.5ということになる。この化学式は、一分子のカルボキシエチルゲルマニウム(GeCH2CH2COOH)と一・五原子の酸素Oとからなるカルボキシエチルゲルマニウムセスキオサイドを繰返単位とする重合体を示すものである。そして、一・五原子の酸素Oというような現実にはありえない状態の表現を排除し、かつ、化学式における各構成元素の数を示すには整数を用いるという基本的な取決めに従うために、右の化学式を書き直すと(GeCH2CH2COOH)2O3となる。これは、Ge132の化学式と同一であり、当然に同一の化合物を表す。

(二) 浅井ゲルマニウム研究所は、訴外会社の代表者たる訴外佐藤が委託研究と重複しあるいは競合する医薬開発を、委託試験実施中はもち論、終了後も一定期間は行うはずはないとの信頼をおいて、訴外会社と前記委託契約を締結したものであり、訴外佐藤も、自己に対し、このような信頼がおかれていることを認識していたはずである。しかるに、訴外佐藤は、右信頼に違反し、米国特許等の特許出願を行ったため、原告との間に紛争が生じ、これを解決するため、本件和解契約が締結されたのである。したがって、バイオジトン8がGe132と同一物質であるとするならば、訴外佐藤が、バイオジトン8に関して薬品開発に着手したことは、前記の信頼関係に違反するものである。仮に、バイオジトン8とGe132の同一性の立証が困難なものであるとしても、両者は極めてまぎらわしい程度の同一性ないし競合性を有しているものであるから、訴外佐藤の右行為が前記信頼関係に違反する点において変わるところはない。

ところで、本件和解契約締結当時、訴外佐藤は、オキシド化合物(バイオジトン8)に関する発明について特許出願をしていた。当時、原告がこの特許出願の事実を知り得たならば、原告は、当然、米国特許等と共にこれら出願のすべてを右契約の対象とすることを要求し、これが認められなければ、右契約は成立しなかったはずである。訴外佐藤は、このような事情を知りつつ、あるいは知るべきであるにもかかわらず、出願が未公開、未公告であり、原告がその存在を知る立場にないことを奇貨として、原告代表者が、「この関係の特許はこれだけですか。」と質問したにもかわらず、出願の事実を開示しなかったものである。

更に、本件和解契約の第四条には、「有機ゲルマニウムの受託研究にともなって発生した今回の紛争は専用実施権契約の施行により総て解決したものとする。」との条項が存在するから、紛争となりうると判断されるすべての事実は既に開示されている旨を表明し、仮に紛争の火種となるような出願が存在する場合には、それについても同様の扱いをするとの意思表示がなされているものと解釈すべきである。

(三) 以上のような事実関係の下においては、バイオジトン8に関する出願は、信義則上米国特許と同一のものとして、本件和解契約による専用実施権設定の対象となると解釈すべきである。

8 研究委託契約に基づく引渡義務

本件特許出願等は、別紙目録1ないし6の特許権と同様、原告の前身浅井ゲルマニウム研究所と訴外会社との間で締結された前記研究委託契約に基づき右浅井ゲルマニウム研究所から委託研究を進めるために開示された技術と、これに基づき右契約によりなされた動物試験の結果とを発明内容とするものである。少なくとも、これらも基礎とするものであることは明白である。

ところで、前記のような研究委託契約において、受託者は、受託した研究の成果について守秘義務を負うはもち論、その成果を利用した薬品の開発を自ら行い、また、他人の開発にこれを利用させない義務を負うものである。すなわち、受任者は民法六四六条及び六五六条の規定に基づき収取した果実を委任者に引き渡すべき義務を負っているところ、受託研究の成果は、収取した果実に該当し、これを委任者に引き渡すということは、研究の成果をすべて委託者に提供するだけでなく、自らこれを利用せず、他人にも利用させないということにほかならないからである。

しかして、訴外佐藤は、受託者である訴外会社の代表取締役の地位にあり、同社の経営一切を行っているものであるから、同人は、訴外会社と同じ義務を負っている。他方、権利能力なき団体である浅井ゲルマニウム研究所の債権債務一切は原告に承継されているから、原告は、訴外佐藤に対し、右研究委託契約における同人の義務を履行しうる地位にある。

9 原告は、訴外佐藤に対し、本件特許出願等も本件和解契約におけるものと同様に処理すべきことを度々申し入れたが、この時点においては、原告と訴外佐藤の間に不正競争行為禁止等請求事件があって、話合いを進める雰囲気ではなかった。原告としては、この訴訟事件を解決する和解の試みがなされるであろうから、そのときに、これらの特許出願に関する問題を解決するつもりでいた。しかるに、訴外佐藤は昭和五九年一二月一一日死亡し、別紙目録の特許権及び特許出願は、すべて訴外佐藤の法定相続人である被告らに相続された。

10 よって、原告は、被告らに対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1(一)のうち、原告会社が昭和五〇年に設立されたことは認めるが、浅井ゲルマニウム研究所が権利能力なき社団であったこと及び原告がその資産一切を承継したことは否認し、その余の事実は知らない。

同1(二)は知らない。

同1(三)は認める。

2  同2のうち、権利能力なき社団である浅井ゲルマニウム研究所が研究委託をしたこと及び実験期間については否認し、その余の事実は認める。実験期間は、昭和四六年七月一日から同四八年六月三〇日までである。

3  同3のうち、訴外佐藤が、原告主張の各特許出願を行い、特許権を得たことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4(一)は否認する。

同4(二)のうち、覚書と題する書面により本件和解契約が成立したことは認めるが、右和解契約の契約当事者は、訴外佐藤と浅井一彦である。仮に当事者が浅井ゲルマニウム研究所であったとしても、専用実施権の設定を受けるのは浅井一彦本人である。したがって、原告は、本件和解契約に基づく請求権を有しない。

5  同5のうち、バイオジトン8の化学式は、(GeCH2CH2COOH)nO1.5n(nは3以上の整数)である。その余の事実は認める。

6  同6は否認する。

本件特許出願等は、本件和解契約の米国特許と実質的に同一内容の発明を内容とするものではない。本件和解契約にいう米国特許は、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の一定の塩類に関するものであり、これに対応する特許は、別紙目録1ないし6である。バイオジトン8に関する同目録7ないし26の特許権及び特許出願は、塩類に含まれない全く別個の化合物に関するものであって、本件和解契約とは全く関係がないものである。

7  同7は否認する。

7(一)については、バイオジトン8に関する出願について別途出願公告がされている以上、バイオジトン8がGe132と同一内容のものであると認定することは、公定力に反し許されないことになる。

7(二)については、米国特許をめぐる原告と訴外佐藤との紛争は、原告からの半ば言い掛かりに近い紛争であったが、訴外佐藤は、学者としての名誉と研究を続けるうえでの煩わしさを避ける意味で、自分で使用する予定のない米国特許について原告に実施権を設定し、その他の有機ゲルマニウム研究の自由を確認することにより紛争を解決するため本件和解契約に応じたものであるから、和解契約の目的からいっても、バイオジトン8は実施権設定の対象に含まれないのである。

原告代表者の「この関係の特許はこれだけですか。」との問いは、米国特許と同一内容の特許及び特許出願は、覚書の別紙に記載したものだけかとの趣旨の問いと解されるから、バイオジトン8は米国特許とは別のものであるとの認識を持っていた訴外佐藤としては、他にはないと答えるのは当然である。また、バイオジトン8の研究は元来自由なものであって、信義則上、訴外佐藤には右出願の事実を告げる義務はないから、仮に、訴外佐藤がバイオジトン8の出願の事実を秘匿していたとしても、そのことは、背信行為に当らない。

8  同8は否認する。

訴外会社が受託したのは薬効の研究であって、Ge132の合成方法等の研究を受託したのではないから、その関係者が自ら独自の合成方法や、ゲルマニウム製品に関する研究開発をしてはならない義務を負う理由はないし、バイオジトン8の発明が研究委託に基づく研究成果に包含されるとは認められない。

また、研究委託契約の受託者は、訴外会社であって訴外佐藤ではないところ、訴外会社の法人格が全くの形骸にすぎないとか、濫用されているというような事情はないから、訴外佐藤が訴外会社の経営一切を行っていたとしても、訴外会社と訴外佐藤を同一視することはできない。

三  被告の主張

1  バイオジトン8と米国特許の化合物の同一性について

(一) 以下に述べるとおり、バイオジトン8は、米国特許の化合物と異なるものである。

米国特許の目的とする化合物は、

式1<省略>

で表される3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸塩類であり、その構造は、右の式からも明らかなように、ゲルマニウム原子に三個の水酸基が結合した構造、すなわち、単量体構造である。

これに対して、バイオジトン8は、

式2<省略>

で表される化合物であり、右の式から明らかなように、ゲルマニウム原子に結合した全部又は二個の酸素原子は、水酸基の状態では存在しえず、水の中でさえ脱水縮合し、Ge-O-Ge結合を有する重合体構造の結晶として得られるのである。

式1で示される化合物と式2又は3で示される化合物とは、異なる化合物であって、その物理化学的性質は全く異なっており、作用効果の点でも明らかに異なる活性を示している。

(二) 別紙目録7の特許がバイオジトン8の基本特許である物質特許であり、他は、製造方法の特許や、医薬品としての用途特許であったり、その分割特許であるから、基本特許の同目録7の特許について論ずれば足りるところ、特許庁長官は、同目録7の特許出願について、同目録1の特許権と同一内容のものではないとして、昭和五七年一一月一五日出願公告しているのであるから、行政処分の公定力により、裁判所が右の両者を同一内容であると判断することは許されないものである。

(三) 仮に、バイオジトン8に関する特許と米国特許が同一内容であれば、特許の登録もされないのであるから、同一内容であると主張しながら実施権登録を請求するのは、明らかに信義則に反する。

2  研究委託契約に基づく引渡義務について

原告は、権利能力なき団体である浅井ゲルマニウム研究所から、研究委託契約の契約当事者の地位を承継したと主張するが、契約当事者の地位の譲渡には、相手方の同意を要するところ、訴外会社は、右譲渡に同意したことはないから、原告は、右譲渡をもって被告らに対抗することはできない。

3  和解契約の錯誤による無効

訴外佐藤は、バイオジトン8は本件和解契約の米国特許と同一内容のものには含まれない確信して、本件和解契約を締結したものであり、仮に、原告主張のように、原告代表者が、ゲルマニウム技術に関連するものであれば包含するものとして本件和解契約を締結したのであれば、本件和解契約の前提とされた主観的行為基礎が異なっていたものであるから、本件和解契約は、無効なものというべきである。

四  被告らの主張に対する認否及び反論

1  本件研究委託契約の「委託者の地位」は債務を一切含まない債権であるから、その譲渡について債務者の同意は不要である。

2  錯誤の主張は否認する。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  <証拠>によれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、ゲルマニウムその他元素の有機又は無機化合物の開発研究並びに製造販売等を目的として、昭和五〇年一二月二三日に設立された株式会社であるが、右設立は、それ以前から浅井ゲルマニウム研究所の名称でなされていた浅井一彦の個人事業(以下、浅井一彦の個人事業としての浅井ゲルマニウム研究所を「浅井研究所」という。)を法人組織とした、いわゆる法人成りであり、これに伴い、浅井一彦の個人事業は廃止され、同事業に関連した資産及び負債のすべてが原告に承継された(右のうち、原告が昭和五〇年に設立された株式会社であることは、当事者間に争いがない。)。

2  浅井研究所は、(GeCH2CH2COOH)2O3なる化学式をもつ有機ゲルマニウムの合成に成功し、昭和四三年三月二九日、浅井一彦が出願人になって、同物質の製造方法に関する特許出願をするとともに、同物質をGe132と命名し、その薬効等の研究を続行した。なお、右出願は、昭和四六年一月二五日、公告されており、また、同じ化学式をもつ物質については、昭和四二年四月一二日、日本碍子株式会社から、カルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイドの製法として特許出願がなされ、同四六年一月二一日、公告されている。

3  浅井研究所と訴外会社とは、昭和四六年七月一日、浅井研究所から提供されるGe132について、訴外会社が、高血圧ラットの血圧及び動脈硬化に及ぼす作用、二か年のラットの慢性毒性試験、ラットの老化に対するゲルマニウムの作用に関する研究、マウスラットの六か月慢性毒性、催奇性、及び、カドミウム、メチル水銀の中毒に対する作用に関する研究をテーマとする研究(試験)を行うことを内容とする研究委託契約(以下「本件研究委託契約」という。)を締結した。

4  訴外会社の代表取締役であった訴外佐藤は、昭和五〇年(一九七五年)一〇月二三日、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製造方法に係る特許出願をベルギー国に行い(出願番号一六一一八一)、右ベルギー国特許出願に基づく、工業所有権保護に関するパリ同盟条約四条の優先権を主張して同一内容の特許出願を、米国、日本、西独、フランス、英国の各国に行い、別紙目録1ないし6の特許権を得た(訴外佐藤が右の経過で同目録4ないし6の特許権を得たことは、当事者間に争いがない。)。

5  右出願の事実を知った原告は、昭和五二年一二月二三日、訴外佐藤に対し、右特許出願の発明の要旨及び発明の詳細な説明に開示されている各種実験例は、本件研究委託契約に基づき、原告が開示した発明の要旨及び訴外会社から原告に報告された実験結果と同一であって、受託事項に関して秘密保持義務を負う訴外会社の代表取締役である訴外佐藤がこのような特許出願を行うことは、義務上の背任に当たるので、誠意ある善処方を求める旨の催告書を送付した。

6  その後、原告及び訴外佐藤の間の右紛争を解決するため、昭和五三年六月七日、原告代表者と訴外佐藤との間において、覚書と題する甲第五号証の書面により本件和解契約が締結されたが、同契約の内容は、次のとおりである。

「第一条 佐藤隆一氏を代表とする有機ゲルマニウムに関する特許(申請国は別紙)は、有効期間内の専用実施権を浅井一彦氏に与えるものとする。

第二条 専用実施権設定契約に対する対価については、譲渡人、譲受人において別途協議する。

第三条 有機ゲルマニウム化合物に関する研究は、今後とも相互の立場を尊重し、研究の自由を妨げないものとする。

第四条 有機ゲルマニウムの受託研究にともなって発生した今回の紛争は専用実施権の施行により総て解決したものとする。」

第一条の別紙の内容は、「覚書一の特許とはアメリカ合衆国特許第四〇六六六七八と同一内容のもので、申請国のうち、既に特許になった国は、アメリカ・フランス・ベルギー・西独であり、覚書作成の時点で特許申請中の国は、日本と英国である。外国特許の場合、専用実施権を伴わないときも、覚書第一条の主旨にもとづくものであることを相互に確認する。日本の場合は、特許が成立した時点で専用実施権の設定手続きを行う。」というものである。

なお、右覚書には、譲渡人として訴外佐藤の記名押印があり、譲受人として浅井ゲルマニウム研究所代表小松泰司の署名押印がある。

7  訴外佐藤は、右和解契約締結の日より前である昭和五三年三月一日に、バイオジトン8に関する別紙目録7及び8の特許出願をしており、更に、その後も、バイオジトン8に関して、本邦及び外国において、同目録9ないし26の特許出願をしている。

8  原告は、昭和五四年九月七日公開の公開特許公報によって別紙目録7の特許出願がなされていることを知り、訴外佐藤に対し、同月二七日付の警告書により、右特許出願を隠蔽して覚書を締結したことは背信行為であり、誠意ある回答を求める旨の警告を行い、その後も、訴外佐藤に対し、本件特許出願等も本件和解契約におけるものと同様に処理すべきことを度々申し入れたが、この時点においては、原告と訴外佐藤との間に不正競争行為禁止等請求事件が提起されており、話合いを進める雰囲気ではなかったため、原告としては、この訴訟事件を解決する和解の試みがなされるであろうから、そのときに、これらの特許出願に関する問題を解決するつもりでいたところ、訴外佐藤が死亡し、被告らが相続したため、被告らに対し、本訴を提起したものである。

以上認定の事実によれば、本件和解契約は、訴外会社が原告の前身である浅井研究所から受託したGe132の薬効等に関する実験研究の結果を利用して、訴外会社の代表取締役である訴外佐藤が、各国において、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製法に関する発明について特許出願をしたとの原告の非難に端を発した紛争を解決するため、右特許出願に係る特許権について専用実施権を設定することとし、その他の有機ゲルマニウムの研究の自由を確認したものであって、その対象となる権利は、右覚書の別紙に、「覚書一の特許とはアメリカ合衆国特許四〇六六六七八と同一内容のもので、申請国のうち、既に特許になった国は、アメリカ・フランス・ベルギー・西独であり、覚書作成の時点で特許申請中の国は、日本と英国である。」と明記されており、そして、右の「アメリカ合衆国特許四〇六六六七八と同一内容のもの」とは、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製法に関する特許を指し、別紙目録1ないし6の特許がこれに該当することは明らかである。

二  原告は、バイオジトン8は、米国特許の最終目的物と実質的に同一であるから、バイオジトン8に関する本件特許出願等も米国特許と実質的に同一の発明を内容とするものであって、本件和解契約による専用実施権設定の対象となる権利に含まれる旨主張するので、以下その点について判断する。

1  前掲甲第六号証によれば、米国特許の特許請求の範囲は、請求の原因6(二)(1)記載のとおりであることが認められる。

2  一方、<証拠>によれば、バイオジトン8は、Ge132の薬理活性にムラがあることを端緒として、訴外佐藤、石川明、石田行仁、池上四郎、佐藤博、富沢摂夫、豊島滋らの研究の結果得られた有機ゲルマニウム重合体であり、3-トリクロルゲルミルプロピオン酸をアセトン等水と混じり合う有機溶媒と水との同量混合液中で反応させて得られる化合物であって、これに関する本件特許出願等の内容は、次のとおりであることが認められる。

(一)  別紙目録7の特許出願は、

(≡GeCH2-CH2-COOH)nO1.5n

又は、式<省略>

(式中、nは3以上の整数である。)で表され、赤外線吸収スペクトル・バンド、ラマンスペクトル・バンド、粉末[10]線回折スペクトル・バンド及び示差熱分析に特徴的な物性を持つ有機ゲルマニウム重合体を、その内容とするものである。

(二)  別紙目録12の特許出願は、

式<省略>

又は、式<省略>

で表され、赤外線吸収スペクトル・バンド、ラマンスペクトル・バンド、粉末[10]線回折スペクトル・バンド及び示差熱分析に特徴的な物性を持つ有機ゲルマニウム重合体を、その内容とするものである。

(三)  別紙目録13の特許出願は、

式<省略>

又は、式<省略>

で表され、赤外線吸収スペクトル・バンド、ラマンスペクトル・バンド、粉末[10]線回折スペクトル・バンド及び示差熱分析に特徴的な物性を持つ有機ゲルマニウム重合体を、その内容とするものである。

(四)  別紙目録8の出願の発明は、同目録7の出願の発明の化合物を含む化合物群の製造方法に関するもの、同目録9ないし11の出願の発明は、同目録1の出願の発明の化合物を含む化合物群の薬剤としての用途に関するもの、同目録14ないし17の出願は、同目録9の出願の分割出願であって、同目録7の出願の発明の化合物の薬剤としての用途に関するものである。また、同目録18ないし21の出願は、同目録7及び8の出願を基礎とする優先権を主張して、西独、フランス、英国、米国においてした特許出願である。更に、同目録22なしい26は、右の目録21の米国特許出願の分割出願であって、同目録21の出願の発明の化合物の薬剤としての用途に関するものである。

3  以上のとおり、米国特許が、請求の原因6(二)(1)記載のとおりの式で表される、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製造方法を内容とするものであるのに対し、本件特許出願等は、米国特許とは異なる右2(一)ないし(三)記載の各式で表され、赤外線吸収スペクトル・バンド等に特徴的な物性を示す有機ゲルマニウム重合体、その製造方法及びその薬剤としての用途を発明の内容とするものであるから、両者は、異なる特許権ないしは特許出願であることは明らかであり、そうであるからこそ、米国特許と同一内容の別紙目録1の特許権が我が国において登録されているにもかかわらず、同目録7、8、12及び13の各特許出願について出願公告がされているのであって、本件特許出願等が米国特許と実質的に同一内容のものであるとの原告の主張を認めることはできないものといわざるをえない。のみならず、原告は、同目録7ないし17の各特許出願について、特許権設定登録を条件として、専用実施権の設定登録を求めているものであるところ、米国特許と同一内容の特許権が同目録1のとおり、日本国特許として存在するのであるから、右条件が成就するのは、同目録7ないし17の各特許出願の発明が、同目録1の特許権の発明と同一内容でない場合に限られるはずであるのに、同目録7ないし17の各特許出願の発明が同目録1の特許権の発明と同一内容であると主張しながら、これらの特許出願について特許権設定登録がされることを条件として専用実施権の設定を求めること自体、首尾一貫しないものというべきであって、原告の主張は、この点においても採用し難いものである。

4  なお、原告の主張は、米国特許と別個のものであっても、類似するものは、本件和解契約の対象に含まれるとの趣旨とも解され、原告代表者尋問の結果中には、和解契約の「米国特許と同一内容」とは、Ge132とほぼ同じようなもの全部を含み、ゲルマニウムとプロピオン酸、酸素が三個ついているようなものは、塩であれ何であれ、すべてGe132に類するという解釈でいたとの趣旨の供述が存在する。しかしながら、覚書の別紙には、前述のとおり、極めて明確に、専用実施権設定の対象となる権利が記載されており、右記載からすれば、専用実施権設定の対象となる「米国特許と同一内容のもの」とは、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製造方法を内容とするものに限られると理解するほかないというべきであり、しかも、右覚書に署名した原告代表者自身、原告代表者尋問において、裁判長の問いに答えて、覚書の別紙記載の文章について、「同一内容のもので、申請国のうち、既に特許になった国は……」と続く旨供述しており、右供述によれば、「覚書一」に記載されている「有機ゲルマニウムに関する特許」は、米国特許及びこれと同一内容のフランス、ベルギー、西独、日本、英国の各特許、すなわち、別紙目録1ないし6の各特許ということになり、また、本件和解契約に立会人として立ち会った証人佐藤善一は、契約の時点では、米国特許と同一内容のもの以外のものについては、全く言及していなかった旨証言しており、これらによれば、本件和解契約締結の時点において、原告代表者が、本件和解契約の対象となる特許として認識していたのに、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製造方法を内容とするものであって、米国、フランス、ベルギー、西独、日本、英国の各国に特許出願されているもの、すなわち、同目録1ないし6のもののみであることが認められ、結局、前掲の米国特許と同一のものとはGe132とほぼ同じようなものすべても含むと原告代表者の供述は、右各証拠に照らし、採用することができない。

また、訴外佐藤は、前示のとおり、本件和解契約締結時には、既に、バイオジトン8に関する特許出願をしていたものであるところ、<証拠>によれば、同人は、本件和解契約第一条の専用実施権設定の対象となるのは、別紙目録1ないし6の米国特許と同一内容のものに限られ、バイオジトン8に関する特許出願は対象にはならないものと認識していたことが認められる。

以上のように、作成された覚書の文書によっても、また、契約締結に当たった契約当事者の双方の内心の意思によっても、本件和解契約第一条の専用実施権設定の対象となる特許権及び特許出願は、3-トリヒドロキシゲルミルプロピオン酸の塩類並びにその製造方法を発明内容とする別紙目録1ないし6のものに限られるものであるから、同契約の解釈として、第一条の専用実施権設定の対象として、これと異なる発明を内容とするバイオジトン8に関する目録7ないし26の特許権及び特許出願を含める余地はないものといわざるをえない。

5  以上のとおりであって、原告の主張は、採用することができない。

三  原告は、訴外佐藤は、本件和解契約締結時に、出願済のバイオジトン8に関する特許出願の存在を開示すべきであったにもかかわらず、これを秘して契約を締結したものであるから、信義則上、これらの特許権及び特許出願は、契約に含めて解釈すべきである旨主張する。しかし、前説示のとおり、別紙目録7ないし26の特許権及び特許出願は、外形的に表示されたところに従っても、また、当事者の内心の意思によっても、契約に含まれていないものであるから、契約の解釈により、これを契約の対象に含ませる余地はないというべきであり、したがって、原告の右主張も、採用の限りでない。

四  次に、原告は、浅井研究所と訴外会社との研究委託契約は、委任又は準委任契約であり、訴外佐藤が出願した別紙目録7ないし26の特許権及び特許出願は、受任者の収取した果実に当たるから、民法六四六条及び六五六条の規定により、訴外佐藤は、浅井研究所にこれらを引き渡す義務がある旨主張する。しかしながら、前認定のとおり、本件研究委託契約は、浅井研究所から提供されるGe132について、訴外会社が、高血圧ラット血圧及び動脈硬化に及ぼす作用、二か年のラットの慢性毒性試験、ラットの老化に対するゲルマニウムの作用に関する研究、マウスラットの六か月慢性毒性、催奇性、及び、カドミウム、メチル水銀の中毒に対する作用に関する研究をテーマとする研究(試験)を行うことを内容とするものであるから、同契約に基づき訴外会社が浅井研究所に対して引渡義務を負う研究成果とは、Ge132に関するこれらの薬効、毒性等の試験結果であって、これと異なる内容の訴外会社の代表者個人が出願した特許について専用実施権の設定義務を負うこととなる法律上の根拠は認められない。したがって、原告の右主張も、採用するに由ないものといわざるをえない。

五  以上のとおり、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 房村精一 裁判官 小林正は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 清永利亮)

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